【週刊金曜日 No.180 1997年7月25日号に掲載】


風力電車が走る!


飯田哲也 (いいだ てつなり) ルンド大学客員研究員・市民フォーラム二〇〇一運営委員

 緑豊かな森と草原が広がるスウェーデン南部のスコーネ地方。ここに、”風力電車 ”が走っている。風力電車とはいっても、風車をつけた電車が走っているわけではも ちろんなく、風力発電からの電力で電車が走っているのだ。電力自由化とエコラベル が生み出したユニークな取り組みだ。

 この風力電車が走っているのは、スウェーデン第3の都市マルメからイスタッド間 、約五〇kmだ。昨年、スウェーデン国鉄(SJ)がこの間を電化するにあたって、該 当路線の年間需要に見合う電力を風力発電で供給することをその地域の電力会社シド クラフト社に要求したのだ。しかも、電車からよく見えるところの風車からという条 件つきだ。このために、シドクラフト社は一基の風力発電を建設し、さらに周辺にあ る二基の風力発電からの電力を買い取ってSJへの電力に充てることにしたというわけだ。

 SJの要求の背景はエコラベルである。エコラベルは、スウェーデン最大の環境NGOであるスウェーデン自然保護協会が一〇年来取り組んでいるプロジェクトで、す でに相当の市場影響力を持っている。紙製品に始まったエコラベルは塩素漂白紙の追放に成功し、洗剤やおむつなどに対象を広げてゆき、昨年からは電力エコラベルも始 まった。この電力エコラベルについては続報したいが、鉄道など旅客交通もまたエコ ラベルの対象だ。鉄道ではほぼ独占に近いSJも、航空や自家用車に対する市場競争 力を確保するためにその旅客交通エコラベルを取得したのだが、それを維持するため には年々厳しくなる合格基準をパスできるように使用する電力のグリーン化を図る必 要があった。

 一方、電力市場の激変も風力電車の実現に役立った。スウェーデンの電力市場は昨 年1月にほぼ完全に自由化された。発電市場に自由に参入したり、購入する電力会社 を自由に選べるだけではない。ユニークなのは、いくつかの電力会社で購入する電力 の”色”を選べることだ。シドクラフト社の場合、誰でも若干の追加料金を支払えば 、風力やエコラベル電力・水力、そして何と原子力の中から好み電力の”色”を選ぶ ことができる。そうした契約者には、たとえば『風力発電契約者』といった認定書も 与えられる。

 今年一月に始まったばかりのこの制度だが、やはり風力とエコラベル電力が人気の ようで、もっとも安い追加料金ですむ原子力を選んだ人は今のところ誰もいないそう だ。SJも、シドクラフト社から風力という”色”のついた電力を購入しているわけ だ。この”色”のついた電力を使って、風力電車だけでなく、”風力マクドナルド” もストックホルム近郊に生まれている。

 スコーネ地方には、来年七月に閉鎖が決まっているバルセベック原発もある。消え ゆく原発とは対照的に、ここ数年、スコーネ地方では風力発電がめっきりと増えてき た。その風車の立つ緑の草原を電車が走りゆく風景は、なんとものどかで美しい。ガチョウとともに風に乗ったニルスの故郷であるスコーネには、やはり原発よりも風車 がよく似合う。


注:残念ながらこれの関連の写真が有りません。でも、スウェーデンの風力発電の写真は有るから見てね。