週刊金曜日 1996年8月2日号 「市民の電力公社」をつくろう! 


   〜カリフォルニアで進む電気事業の規制緩和に学ぶ〜  から

(すまん!図と写真はない。オリジナルは週間金曜日にある。買って読んでくれ!)


飯田 哲也:東京大学先端科学技術研究センター
市民フォーラム二〇〇一エネルギー研究会)

先駆的な環境・エネルギー政策で知られたカリフォルニアで、全米の先陣をきって電気事業の再編を軸とする大規模な規制緩和が進行中である。その事例を読み取りつつ、規制緩和を契機として「市民の電力公社」を目指すことを提言する。

●電気事業の規制緩和とは

電気事業は「二つの独占」を特徴としてきた。発電−送電−配電を一社がカバーする「機能の独占」と、関東地域の配電を東京電力一社がカバーしているように一定の地域を一社のみが営業地域とする「自然独占」である。電気事業の規制緩和とは、その「二つの独占」の解体プロセスである。(JRRの図)

こうした規制緩和は、八〇年代のレーガン・サッチャー政権の経済政策を支えた新古典派を理論的出発点としつつ、公的規制で高利益を維持している電気事業に対して産業界の不満が高まったことが政治的原動力となってきた。加えて、独立発電事業者による経済性の立証やコンピュータ技術の進展などにより、公的規制の根拠を失ってきたことも指摘されている。

●カリフォルニアで進行中の規制緩和

米国における電気事業の規制緩和は、カーター政権時代の一九七八年公益事業規制政策法(PURPA)により始まった。石油ショックを背景として施行されたPURPAは、省資源や効率的な発電の促進を目的とした連邦法であり、電力会社は再生可能エネルギーを用いた小規模発電事業者やコジェネレーションからの電力購入義務が課せられた。それ以来、連邦レベルで多くの小規模電源が出現し、卸売市場が急速に拡大した。特にカリフォルニアでは、SO4と呼ばれる追加措置によって、八〇年代に風力やコジェネなどの小規模発電が加速された。なお、発電だけでなく、DSMと称される需要サイドの省エネルギー対策や、DSMを発電所と同等に評価する統合資源計画(IRP)もこの時期に普及した注目すべきエネルギー政策である。(注一)

九〇年代に入って、電気事業への参入規制の撤廃と卸電力への送電線の開放を定めたエネルギー政策法(EPAct)の施行を皮きりに規制緩和が加速された。電気料金が全米平均よりも五〇%高いとされるカリフォルニア州では、昨年一二月に電力取引所(Power Exchange, PX)と呼ばれる電力市場創設を中心とし、発電事業者と顧客とが直接取引できる要素(直接アクセスと呼ばれる)を加味した改革案が加州公益事業規制委員会(CPUC)によって決定された。電力取引所とは、電気事業者や独立発電事業者が任意に参加できる全ての電気の自由市場であると同時に、電力供給調整の機能を併せ持つもので、英国ですでに先行実施されている「プール」の形態に近いものである。一九八八年一月に予定されるこの電力改革によって、発電市場はほぼ完全に自由化されるとともに、電力小売市場の自由化へも道が開かれることになった。(JRRの図)

●規制緩和の光と影

さてこうした規制緩和はどのような影響をもたらしているだろうか。

小規模分散型エネルギーの普及や電気事業における直接コストの透明化、ひいては市民社会と敵対してきた官僚的権威主義の破壊は歓迎できる。コストの透明化によって、閉鎖済み・運転中を問わず既に原発は『不良債券化』しており、今後も新規発注されることは考えられない。

一方、マイナスの影響もでてきている。競争原理が浸透し電気事業者の関心が電気料金水準に移るようになるにつれて、多くの公共プログラムが縮小もしくは廃止された。PG&Eでは、二.五億ドルのDSM予算のうち一億ドルの削減を一九九五年に発表し、低所得者を対象とする一部のプログラムを除く公共プログラムの縮小・廃止をCPUCに申請した。再生可能エネルギーを含む研究開発も大幅に縮小された。また、雇用への影響も大きく、PG&E社では四年間で七千人もの削減が行われた。

●日本的文脈における規制緩和

わが国では、昨年の電気事業法の改正で売電事業が認められたことによって、電気事業の規制緩和がようやく緒についたところである。これに対して、市民派・良識派はむしろ好意的である。それは、規制緩和がもたらす弊害よりも、あまりに不透明で反市民的な日本の電力会社が「透明化」することへの期待が大きいためあろう。すなわち、強大な政治力・電気事業連合会を事務局とする談合体制・原発を立地に象徴される地域の不公正を内包する構造・太陽光や風力発電に対する消極的な姿勢・非効率な経営など、「非公益的」な電力会社への批判によるものであろう。

ただし、電力の規制緩和には航空や電信電話よりも慎重さが必要である。それは電力が単なる商品ではなく、「環境」と密接な関係を有しているためである。そのため、日本でも、規制緩和を進めていく前提として、社会的に公正・公平な政策決定システムやルールを確立することが最優先課題であろう。

●「市民の電力公社」を目指して

最後にサクラメント電力公社(SMUD)を紹介したい(写真)。SMUDは、七名の理事がいずれも公選された市民によって構成される文字どおりの「市民の市民による市民のための電力公社」である。カリフォルニア州の州都であるサクラメント市を中心とする、需要家数五〇万弱、最大供給電力二百万kWの小さな電力会社である。同社は、一九八九年に住民投票によって九一万kWのランチョセコ原子力発電所を閉鎖した後、「持続可能なエネルギー未来」を目標に据え、風力など再生可能エネルギーを中心とする分散型発電所やDSMを統合した戦略を構築した電力公社として世界的に注目を集めている。SMUDの戦略では、とりわけDSMと再生可能エネルギーという環境に配慮したエネルギーを重視するとともに、地域における雇用・地域における経済を重要視している。(注二)

日本でも、規制緩和を契機に既存の電力会社の分離・分割の議論を始める必要があろう。その際に、市民に開かれ市民に支持されたSMUDのありかたは、それぞれの地域で「市民の電力公社」を構想していく上で、あるべき方向性を示唆しているといえよう。


(注1)DSMとは、新たな電力需要を、発電所の増設ではなく省エネルギーで賄うもので、住宅断熱・太陽熱温水器・照明取り替え・植樹などのプログラムがある。IRPとは、DSMを発電所と対等に評価し、環境などの要素を含めて全体の費用を最小化する計画である。市民の要求と電源立地難を背景に、いずれも電力会社による自主プログラムとして1970年代から行われていたが、1980年代後半にDSM導入を促進するインセンティブ規制が導入され、1992年エネルギー政策法(EPAct)によってIRPの提出が要求されてから活発となった。特にカリフォルニアにある2大電力会社PG&EとSCEが全米でDSMへの出資最上位2社であり、サクラメント電力公社(SMUD)も地方公営電力ではDSMに最高の出資をしている会社である。なお、ヤンキーロー原発、サンオノフレ原発1号機、トロージャン原発はいずれもIRPの評価によって閉鎖された原発である。

(注2)サクラメント電力公社については、長谷川公一「脱原子力社会の選択」(新曜社、一九九六年七月)に詳しい。同書では、日本の電力会社の分離分割も提起しているのであわせて参照願いたい。



以上は 飯田 哲也:東京大学先端科学技術研究センター(市民フォーラム二〇〇一エネルギー研究会)が書かれたものである。本人の同意を得てここに転載する。