★ 核燃料輸送事故時の消防活動

原発の稼働にともない核燃料輸送は年を追って増加し、さらに今は「もんじゅ」へのプルトニウム輸送も加わっている。また、病院や研究所等で使われる放射性物質の輸送も全国で年間数十万回にものぼると推定される(陸上、海上、航空)。ところが一方、これら輸送に対する防災体制はというと、全くお粗末であることは当シャットダウンで報告してきた通りである(滋賀県の状況は、全国の自治体にもほぼ当てはまるはず)。そこには住民の安全確保という最低限の責任をも放棄している自治体の姿が鮮明に浮き彫りにされている。それは何故か。原子力という「国策」としての中央からの統制が、防災という自治体レベルの問題にまで色濃く反映されているからに他ならないからだ。 では改めて、国(=自治体)が考える核物質輸送事故時の消防活動の内容について今回検討してみたい。ここで取り上げるのは、1988年に消防庁が発表した「放射性物質輸送時消防対策マニュアル」である。滋賀県でも名神などの高速道路沿線の各消防署が一応“持っている”と答えた、あの唯一の事故対策マニュアルである。

尚、文中の「シャットダウンNo.22,25,28」は別紙を参照のこと。                    ◇          ◇          ◇

●「輸送マニュアル」の概要

当マニュアルは次の5章から構成されている。

 第1章 放射性物質の輸送  … 輸送の現状を概説
 第2章 自動車火災等の実態 … 一般論
 第3章 安全の確保     … 法規制の解説
 第4章 事故時の消防対策
 第5章 放射性物質の基礎知識

全125ページに及ぶ、かなり厚いものだが、肝心の「消防対策」はわずか9ページしかないという代物で、これだけで既に消防庁(=国)の姿勢がどういうものか十二分に窺えるだろう。

さて、その第4章の前文に輸送マニュアルの基本的考え方、すなわち国の姿勢が明確に示されている。「…わが国においても、IAEA規則を基に、輸送に係わる安全基準を法制化し、運輸省等関係省庁が分担して、法令で定められている輸送物の技術上の基準に従い安全確保が図られている…こうしたことから、放射性物質を輸送する車両が火災、事故等に遭遇しても、ほとんどの場合は一般の車両火災と同じように対応しても放射線障害が発生する恐れはない」。つまり、輸送車が事故に遭っても安全は確保されているからなんら問題はないというのが、このマニュアルの大前提なのである。「問題ない=絶対安全」という根拠も見解も何も示していないのにである(シャットダウンNo.25江田五月科技庁長官からの返書参照)。こんなマニュアルが実際の事故時に果たして役に立つのかどうか、以下検討してみたい。

●「専門家」だけが頼り?!

 「消防活動の原則」としてマニュアルは次のように述べている。「消防機関が十分な対処知識を有する場合を除き、専門家等の支援を要請する。…国の関係省庁は係官及び専門家を現地に派遣する体制を整えているので、これらが派遣された場合はその助言を受けて適切に活動する」。シャットダウンNo.22に示したように滋賀県内の該当する消防署で「十分な対処知識を有する」と思われるところはない。県の防災課も然りである。となれば、国に要請するしかない訳だ。専門家と連絡が取れるまで、あるいは専門家が到着するまでの間、消防隊員は一体どうすればいいのだろうか。マニュアルには何も示されていない。本来、消防機関が独自に十分な対処ができる体制を整えるためのものが「マニュアル」なのではないのか。

●放射線が飛び交う現場で情報収集?

「事故現場における情報収集」という項では、「放射性物質自体の性状(火気・熱気に対する危険性、禁水性、汚染拡大の可能性)、火災等の影響(輸送容器の亀裂、放射線の強度)」などを詳細に調査・収集せよと述べている。

例えば、事故が起こり車輌火災が発生、乗務員が被災し積荷が何であるかわからない。こんな時、いち早く現場に到着した消防隊員は何をもって目の前の火災現場に何ら五感に感じない放射性物質があると認識すればよいのだろうか。また仮にそれがわかったとしても、混乱した現場で専門知識を要するこれらの事項について、どれだけ迅速かつ正確に情報収集ができるのだろうか。少なくとも教育・訓練がほとんどなされず、放射線測定器も満足にない滋賀県の消防署では不可能である。(シャットダウンNo.22参照)   見方を変えれば、放射性物質輸送の事前情報がちゃんと伝えられていれば、こんな出来るかどうかもわからない情報収集など不要であろう。事前情報が公安委員会だけではなく、消防機関にも通報されるよう法制化すべきであるし、自治体自らがその努力をするべきである。坂田郡の消防本部が「警防活動に事前情報が望ましい」と回答しているが、これはまさに正論である(シャットダウンNo.25)。

            尚、文中の「シャットダウンNo.22,25,28」は別紙を参照のこと。 

●個人用線量計を所持することが望ましい?!
                                       
「汚染又は被曝の恐れのある区域での活動」では、「ポケット線量計、熱蛍光線量計等の個人被曝測定用具を所持することが望ましい」とある。なるほど、「望ましい」程度だから各消防署もこれに従って整備していないし、県もそれを放置したままなのか、妙に納得(シャットダウンNo.22、28)。 しかし、マニュアル最後の方で「消防隊員の安全管理」として「被曝測定記録:放射性物質の漏洩等又はその恐れのある事故現場で、消防活動に従事した消防隊員については、消防隊員ごとに被曝線量の測定結果を記録し、健康管理につとめること」と明記している。線量計を持っていないのにどうやって「記録し、健康管理」するのだろうか。まっ、これも読みようによっては「努力目標」だから問題ないのかも…。

●消火は注水で、一般の車輌火災と同じでOK?!                

例えば六フッ化ウランに注水すれば、化学毒性の極めて強いフッ素化合物が生成し、被害を大きくする可能性がある。情報収集の項で輸送物の禁水性について調べよと述べているが、どうゆう物が禁水性でその場合の消火方法はどうするのかなどもっと具体的に示すべきである。

●適切な避難場所ってどこ?!                         
われわれ住民にもっとも関係する「避難誘導等」の全文を示す。

「放射性物質の輸送については、輸送物、輸送方法等について法令によって厳しい規制が実施されていることから、放射性物質の漏洩等が発生しても一般的には避難誘導を必要とする規模のものが発生する可能性は少なく、ほとんどの場合は消防警戒区域からの避難又はその区域への出入りの禁止若しくは制限をすることで足りるものと考えられる。しかし、万一輸送車輌の火災等の現場付近に在る一般人の避難誘導を必要とする事態が生じた場合は、警察官、地方公共団体等の関係者と相互に密接な連携を保ちながら、適切な避難場所に誘導する。」

これを読んで適切な行動を取れる人がいたら、是非ご指導願いたい。ここに述べられていることはつまり「事故が起こっても大丈夫」という、いつもながらの思想・信念・願望・科学信仰に過ぎない訳だが、少なくとも後段に従えば自治体レベルでは避難場所の検討位なされていてもいいはず。ところが全くの皆無(シャットダウンNo.25)。さらに「適切」の定義もなんら示されていない。万一の時、自治体が考えることはおそらく、パニック防止を大義名分とした「情報統制」と「交通規制(=閉じこめ)」であることは十分に推察できよう。

以上、消防庁発行の「輸送マニュアル」について滋賀県の状況を絡めながら、その問題点のいくつかを検討してきた。冒頭で述べたように「国策」としての原子力が、いかに自治体をも支配し、消防隊員や住民の安全を脅かしているか、その一端がご理解いただけたものと思う。こうしている今この時にも、現実にすぐ側で「核」がうごめいていることをお忘れなく。

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